アメリカのウィスコンシン州の事件。
ある大手チェーンスーパーでレジを担当していた彼が最初の事件の当事者となった。
どんな人か、詳細は今となっては思い出せない。どこにでもいるような普通の老人だったと思う。
いつものように会計を済ませて、老人に料金を請求した。
1ドル紙幣を何枚か手渡して老人はこう言った「幸運が訪れますように」
手渡された一番上の1ドル紙幣に赤いペンで何か書いてあったのは覚えているが、なんて書いてあったかはわからない。
紙幣にメモを取るなんて珍しい事でもない。
その日から彼の人生は変わった。「買った覚えはないが自分名義の宝くじ」が当たったり、応募した覚えのない懸賞の車、最新家電、果てにはアパートの1室まで手に入った。
一気にいっかいの労働者から富裕層の仲間入りをしたのだ。
事件はこれだけじゃなかった。
ある人は高校生ぐらいの女の子から、ある人は浮浪者から、ある人はエリートサラリーマン風の男から同じように赤い落書きがされた1ドル札を「幸運が訪れますように」という言葉と一緒に受け取り、数日のうち大金持ちになった。
このような不思議なサクセスストーリーが街を駆け巡った。
自分もこの1ドル札が欲しい? 本当に?
この話には続きがある。
いつ頃からだろう。こんな噂も聞こえ始めてきた。
赤い落書きの1ドル札を受け取ると数日のうちに全てを失う。
ある富豪はお釣りで1ドル札を受け取った。翌日、彼女の会社は不祥事が発覚し、多額の借金を背負った。
ある個人店のオーナーは1ドル札を品の良さそうな婦人から受け取った。その時には「いつか」幸運は訪れますように、と言われた。
店にダンプカーが突っ込み、店主は3ヶ月の入院となった。
サクセスストーリーだけじゃない。裏にはいったいいくつの不幸が隠されていたのか。
街は混乱した。その噂を聞きつけた不届き者が自ら赤い落書きの1ドル札を用意して、噂を真似し始めたのだ。
もちろん、ただの愉快犯だ。一方でサクセスストーリーも全てを失った噂も止まらない。
いったいどのくらいの確率で「あたり」なのか「はずれ」なのか。
恐怖に駆られた住人の中にはついに「No Cash, Card Only」と現金を断るものも続出した。
ここぞとばかりにわざわざ現金のみの店を開く無謀な者もいた。
いつしか赤い落書きの1ドル紙幣を手にするものはいなくなり、多くのサクセスストーリーと破産ストーリーを残して、その噂は消えた。
ただ、最近は赤い落書きされた1000円札が日本のある地方で目撃されているらしい…