通勤が苦痛だ。リモートワークが普及したことで、郊外の田舎に引っ越したが、仕事内容が変わり、出社回数が増えたのは誤算だった。
電車に揺られること1時間30分。座れたとしても肩と肩がぶつかるような電車の中では、イヤホンでラジオや動画配信サイトの動画を垂れ流して時間を潰すのが精一杯だ。
その日もいつものように予めダウンロードしていた動画配信サイトの動画をうとうと聞き流していた。
どのくらい経ったかわからない頃、動画の音が途切れたと思うと、イヤホンから「Bluetooth disconnected」と何度も聞こえた。
乗客が多い駅などではよく起こることだ。
電車が駅を出発すると、イヤホンが再接続されたことを告げるアナウンスが聞こえた。
5分後には、全て忘れるような動画の続きが始まると思っていたが、流れてきたのは人の声とは思えない音声だった。
「…的な交流を望んでいる。この交信が届いたものは速やかに君たちの国の代表に知らせて欲しい」
明らかに日本語ではあるが、日本人の発音ではない。具体的な違和感は指摘できないが…
「我々は、君たち地球から見て3光年先にある星からこの電波を送信している。この通信は、この星で使われている言語の上位20%で聞こえるように、特殊な技術を用いている。対象は英語、スペイン語、ポルトガル語…」
宇宙からのメッセージ…?
慌ててスマホを取り出すと、イヤホンとの接続が切れていた。ワイヤレスイヤホンが何かに繋がっているようだった。
混乱している最中にもメッセージは続いた。
「この通信を受け取った者がいれば、夜には君たちの星の西側に向かって…」
“Bluetooth Disconnected”
音声は途切れた。いつの間にか23区でも最大級のターミナル駅に着いていた。
その後、私のイヤホンが宇宙からの交信と再度接続させる事はなかった。
西の空に向かってる何をすれば良かったのだろう。
もしかしたら歴史を変える瞬間だったのかもしれない。
あれからしばらく経っても宇宙人と地球人が交信できたというニュースは聞こえてこない…