あの日、心臓に強い痛みが走り呼吸が苦しくなった。不幸なことに家族は出かけていて、家には私しかいない。
必死の思いで救急車を呼び、10分ほど経ったころだろうか。
サイレンの音が家に近づいてきて、激痛の中私は安堵を覚えた。
その後、救急車に乗り込み病院へと向かった。
あまりの痛さと救急車が着た安心感から、私の記憶は飛び飛びになる。
救急隊員に症状のことや、家族のことを聞かれたような気がする。だが、記憶は定かではない。
だから、この救急車がどの病院に私を運んだのか記憶にないのだ。
病院に着いたあとの最初の記憶は看護師の奇妙な格好だ。
白衣が赤かった。少し赤いのではない、全身を赤い衣服で身を包んだ看護師が私を取り囲んだ。
私はぎょっとしたが、あまりの心臓の痛さにそれ以上の疑問を持つことはできなかった。
その次の記憶は、手術が必要ですね。今から緊急手術をします、というやはり真っ赤に染まった白衣を着た医者の言葉だ。
手術室に運ばれたあとも一瞬だけ覚えている。部屋の壁一面真っ赤だった。どこを見渡しても赤い色しか目に入ってこなかった。
私の記憶はここまでだ。
目が覚めた時、私は病室で寝ていた。白い、清潔なシーツにくるまれていた。
横には家族もいた。
一通りの会話が終わると、私は昨日の不思議な出来事のことをもっと知りたくなり家族に尋ねた。
私は昨日どの病院で手術を受けたのか?
家族はきょとん、としていた。
何を言っているの、手術なんか受けていないよ。ずっと病室で寝ていたじゃない。
私が見た光景は痛みが生み出した幻覚だったのだろうか?
真っ赤に染まった白衣なんてないよな、と昨日の出来事を笑い飛ばそうとしたとき、胸がずきりと痛んだ。
胸に大きな縫い傷ができていた。私はこれまで手術を受けたことがない。
これはなんの傷なのだろうか?
もしかして、昨日の出来事は幻覚じゃなくて、私は本当に手術を受けたのだろうか・・・