楽しそうに笑う女性。だが、色調は暗く、なにか不穏な空気が漂う。

静かな田舎町に伝わる風習「ハレの日」を紹介しよう。ハレの日とは、完全にランダムで周期性のない日に行われる祝祭のことであり、町の人々はその日を心待ちにしている。「ハレの日」に選ばれた若者は、町の中心にある広場で一日だけ主役になるのだ。

ハレの日の2日前には、町の中から10代後半から30代の若者が一人選ばれる。選ばれた若者は、その日一日を特別な存在として過ごし、町の人々から祝福される。しかし、なにを祝っているのかは誰も知らない。実際のところ、選ばれた若者は意味もなく賞賛の声を浴び、ちやほやされ、大切にされて一日を過ごす。

「ハレの日に心から祝福している人なんていない。でもそこで手を抜くと自分が選ばれた時に周りが手を抜く。だから全力で喜んでるふりをする」と、ある若者が語る。

ハレの日は、この町の若者たちにとって特別な経験であり、一度体験すると忘れられないものとなっている。「周りから見るとばかばかしいかもしれないが、1回主役を体験するとまた体験したくなってしまう。忘れられない」と、別の選ばれた若者が語るように、ハレの日の経験は町の若者たちの心に深い印象を残しているようだ。

ハレの日の起源について、町の住民は興味深い説を語る。町の若者の流出が止まらない中で、町にとどまる若者を増やすための対策として考案されたのだという。「ルーツは若者の流出が止まらない町が考えたせめてもの対策だった。ハレの日に選ばれた若者は町の中心にある広場で一日だけ主役になり、町の人々から賞賛されることで、町にとどまる若者を増やそうとしたのだろう」と、町の住民が語る。

一度ハレの日を体験した若者は町に戻ってくる確率が高いという。
町を離れ、都会に出てしまうとそこでは自分はタダのその他大勢だが、この町ではただの偶然で一躍主役になれる。
そんな甘美な誘惑が若者を呼び戻すのだという。また、この風習を聞きつけた若者の移住も増えているという。

若者を魅了するこの風習は今後も続いていくのだろう。

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