近所のアンティークショップで、一つの鏡に目が留まった。
その鏡に映し出される私の姿は、どこか不気味だった。
それでも私は、なぜかその鏡を買い求めてしまった。
それから私の不幸は始まる。
ある日の夜、髪を乾かしていたとき鏡に映った自分が、急に喋りだした。
あまりの恐怖にしばらく固まってしまった。
しかし、鏡の中の私は何度も同じことを伝えようとしているようだった。
鏡の中の私は、私が今悩んでいる仕事のことについてアドバイスしているようだった。
それは素晴らしいアドバイスだったので、不気味さを感じながらも私は行動に移してみた。
すると、これまで悩んでいたことが、嘘のように仕事の悩みが解消した。
そんなことが続いた。
私の人生は急激に上向きはじめた。
たった数年間の間で、仕事は順調に進み出世もした。
これまで手にしたこともないような大金も手にすることができた。
すべてが順風満帆だった。
私は、どんどんと鏡の中の自分自身に依存するようになっていった。
何か悩みがあると、すぐに「私」に話しかけた。
「私」からのアドバイスが、私にとって重要なものになっていた。
だが、心なしか「私」がどんどんと醜い顔になっていっている気がした。
「私」の口は裂け、ケタケタと下品に笑う。
醜さに比例するようにアドバイスは過激になっていった。
同僚を裏切れ、友人を騙せ、犯罪に手を染めろ。
それでも私は、その通りに行動して、自分の人生を成功に導いていた。
行動しない理由がない。
「私」に従えば、私は成功を手にすることができるのだ。
私は「私」に耳を傾け続けるしかなかった。
そして、ある日、「私」は恐ろしい命令を下した。
「今夜、そのアパートの隣室に住む老婆を殺せ」
私は耳を疑ったが、「私」は大きな口でケタケタと笑っていた。
私は命令に抗うことができず、その夜老婆の部屋に忍び込み命令を実行した。
老婆の亡骸を見下ろしながら、自分自身に問いかけた。
「これで、本当に正しいのか?」
その日の夜、恐怖に包まれた私は、逃げ帰るように自分の部屋に戻った。
しかし、その後も「私」の命令は止まらなかった。
私はその命令に従い、老婆以外にも多くの人を傷つけた。
そして私はどんどんと成功を手にしていった。
今では、私は鏡に映る私に支配されているように感じる。
私は自分を止めることができず、犯罪者となった。
今、私は警察に追われながらも、「私」の命令に従い、次の犠牲者を探している。
遠くから、サイレンの音が聞こえてきた。
私はそれに気づき、再び逃げる準備を始めた。