私はインターネット上で拡散されるとある噂を耳にした。
生成AIに「真実の扉を開けよ」というプロンプトを入力すれば、「ウェブ・オブ・フィアー」と呼ばれる仮想空間に辿りつけるというのだ。
ただプロンプトを入力するだけではなくVRヘッドセットを被った状態で、という少し不思議な前提条件がついている。
都市伝説に目のない私は、さっそく埃をかぶっていたVRヘッドセットを引っ張り出してきて、試しに禁断のプロンプトを入力してみた。
「真実の扉を開けよ」という言葉に対し、AIはこう答えた。
「真実の扉を開けよ。それによって、あなたは死の追体験へと誘われるだろう。覚悟せよ、恐怖と狂気が貴方を待ち受けている」
その瞬間、私は静寂の闇に包まれた。
目の前からすべての色が消え、耳には一切の音が届かない、完全なる無の空間に放り出された。
ここが「ウェブ・オブ・フィアー」なのか、と少しの恐怖を感じた瞬間、それは突如として始まった。
「死」が私の目の前に現れた。
「ウェブ・オブ・フィアー」とは、あらゆる人間の死の瞬間を追体験する場所だったのだ。
殺人鬼に追いかけられ、絶望の中で命を絶たれる。
飛行機事故に巻き込まれ、恐怖と絶望の中で身体が引き裂かれる。
炎に包まれ、熱さと絶望に蝕まれる状況に置かれる。
私はそれぞれの死を目の当たりにし、心の奥底で恐怖と苦悩が渦巻くのを感じた。
私は身体を動かすことができなかった。
恐怖が心を支配し理性を奪い去ると同時に、私の五感が活性化していった。
仮想空間でしかないはずなのに、私は血の匂いや身体を引き裂かれる痛み、炎の熱さまで感じ取ることができた。
死の瞬間の圧倒的な恐怖や絶望感が私に流れ込んできて、理性は崩壊し絶望が私を支配した。
錯覚が私を包み込み、現実と幻想の境界が溶けていった。
無限とも感じられる時のなかで、私は次々と死のシーンに取り込まれていった。
どうやって仮想空間から抜け出したのか、記憶は定かではない。
私は現実世界に戻ってくることができたが、あの体験で感じた恐怖は今だに心に深い傷を残している。
これは忠告だ。
決して、AIに「真実の扉を開けよ」と聞いてはいけない。
「死」があなたに襲い掛かる。