春の陽光が優しく街を照らし、色とりどりの花々が道路脇に咲き誇っていた。
長い間、私たちは流行り病に苦しめられていたため、この美しい風景を堪能することもできずにいた。
だが、ついに病気が収束し、私は入学以来の親友である奈津子との待ちに待った外出を計画した。
二人での食事という新たな体験に胸を躍らせながら、私たちはレストランの席に座った。
奈津子のマスク姿に慣れていた私は、彼女が初めて素顔を見せる瞬間を楽しみにしていた。
「ねえ、私綺麗?」と奈津子がふと口にした言葉に、嫌な予感がした。
まるで有名な都市伝説みたいなことを言うんだな。
マスク越しでも分かる。微笑みながら、彼女はマスクを外した。
その瞬間、私の心臓が一瞬で停止したかのように凍りついた。
奈津子の顔には、衝撃的な光景が広がっていた。
左右に裂けた口からは、赤く濃い血のような模様が広がり、それが彼女の顔全体を覆っていたのだ。
眩暈が私を襲い、周囲の風景が一瞬にして歪んだ。
都市伝説の口裂け女のイメージが、まるで現実と幻想の境界を越えて私の前に立ちはだかった。
恐怖と不安が私の心を支配し、呼吸が詰まるような感覚に襲われた。
目を見開きながら、私は奈津子の顔をじっと見つめた。
その瞳には闇が宿り、異様な微笑が顔全体に広がっていた。
衝撃と絶望が私を襲い、鮮烈な感情が胸の奥で炸裂した。
口裂け女の都市伝説が現実の一部となってしまったのかという戦慄が私を襲った。
街の喧騒が遠くに聞こえ、心地よい春の風も恐ろしく感じられた。
私は恐怖に取り憑かれ、身動きが取れなくなってしまったのだ。
奈津子の異様な笑みと血に染まった顔が私を圧倒し、恐怖が頂点に達した。
まるで口裂け女そのものが彼女に宿ってしまったかのように見えた。
私は悲鳴を押し殺し、足元に立ち尽くしていたが、奈津子は静かに私に近づいてきた。
その瞳は狂気に満ち、口裂け女の存在が彼女を完全に乗っ取ったかのようだった。
「私、綺麗?」
彼女は冷笑を浮かべながら壊れたロボットのようにそのセリフを繰り返した。
そして鋭い爪を伸ばし、私に向かって迫ってきた。
恐怖と絶望に支配された私は、必死に逃げる術を探した。
だが、身体がいうことを聞いてくれない。声すら上げることができない。
周囲には人々がいたが、彼らは私たちの異常な光景に気付くことなく、平穏な日常を送っているかのように振る舞っていた。
「ねえ、私綺麗?」
そう繰り返す彼女の目には涙が浮かんでいるように見えた。