これは私が仕事帰りに遭遇した不思議な体験である。
夜の10時、疲れきった私は長い帰路についた。
通勤電車は混雑を抜けてまばらな車内だった。
座れた私は安堵し、仕事で疲れた頭を休めるために窓の外を眺めていた。
そこで私は微かな不安を感じ始めた。
微細な違和感が心を引っかき、視線を逸らすことができなかった。
反対側の通路に座る3人の若い女たちが目に入った。
おそらく友人同士の集いだろう、彼女たちの服装は周囲とは一線を画していた。
白黒のドレスに身を包み、フリルが舞い踊る。
多様なファッションが許される都会でも、彼女たちは浮いた存在に見えた。
だが、その違和感は服装だけに留まらない。
彼女たちは無言で正面を見つめ、微動だにしない。
まるで他人同士が偶然集まったかのような雰囲気が漂っていた。
その中で1人の女は、涙を堪えるような表情で私の顔をじっと見つめ続けていた。
1つ、2つと駅が過ぎても彼女たちは動く気配を見せない。
会話を始める気配もなく、そして私を見つめる女の視線は途切れることがなかった。
人の気配もまばらな車内には、悲しげな静寂がただよっていた。
目的の駅に到着するまで、何の変化もなかった。
電車を降りようと私が立ち上がった瞬間、彼女の口が動いたように見えた。
その変化は不意に私を驚かせ、確かめるために彼女の顔を再び見つめた。
しかし、彼女の顔はさっきまでの表情ではなく、無表情な仮面のような表情に戻っていた。
悲しみに歪む顔が不気味に浮かび上がっている。
車掌のアナウンスと出発の合図が鳴り、私は慌てて電車を降りた。
ホームにに降りた私は振り返り、彼女の姿を追った。
彼女は再び私を見つめていた。
そして、彼女は再び私を見ながら、口を動かしていた。
彼女が何を伝えようとしていたのか、私には分からない。
ただ、彼女がたった一言を伝えようとしていたのではないかと思う。
「助けて」と。